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ロベルト・ムージルの六つの短編小説

 投稿者:靴を間違えたフォルマリスト  投稿日:2020年 5月 1日(金)18時07分37秒
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  ? ロベルト・ムージルの六つの短編小説が岩波文庫で読めるのは幸運なことだと思う。古井由吉訳の『愛の完成・静かなヴェロニカの誘惑』の二編と川村二郎訳の『三人の女・黒つぐみ』の四編である。

? 「愛の完成」「静かなヴェロニカの誘惑」は1911年の発表。『三人の女』は「グリージャ」「トンカ」「ポルトガルの女」を纏めて24年に出た。「黒つぐみ」は28年に雑誌に発表された。

? 六つの短編は全て男女の非対称的な関係を扱ったものだが、中でも強く印象に残こり不思議な刺激を受けたのは「静かなヴェロニカの誘惑」と「トンカ」の二つである。「トンカ」が一番好きなのかもしれない。始まりが素晴らしい。

「とある生垣のほとり。一羽の鳥がさえずった。と思うと太陽は、もう薮かげのどこかに姿をかくしていた。」


? ヴェロニカの誘惑はヨハネスが何処か遠い海辺の街へ出かけ自殺することだった。訳者が考えるように小説の終わりが発端へと循環すると見ることも魅力的だ。トンカは計算上、彼(話者)が旅に出て留守の時に妊娠したのだが決してそれを認めようとしなかった。さらにそんなことはあり得ない、あるはずのないことにみえるのだった。

?ムージルの文体は明解で明解さを武器に対象にせまっていく。あらゆる角度から対象を分析する。訳者、古井さんによると「とにかく、分解するうちにいつか、あるいはいきなり、歌っている。」

? さて実に不思議な短編小説にさらにもう一つ不思議な短編を加えて読んでみた。ナサニエル・ホーソーンの『ウェークフィールド』である。ロンドンに住む中年の夫婦、ある日、夫は数日旅に出ると嘘をつき、通り一つ隔てた下宿屋に宿を取る。深い考えがあったわけではない、が、それから20年夫人の元へ戻ることはなかった。彼は赤毛のカツラで変装し始終夫人の住む家を覗いていた。20年目の夕方散歩の折に二階の窓に夫人の影が映るのを見上げた。雨が降り出し彼はずぶ濡れになった。二十年の歳月などなかったごとく彼はドアを開けて家に入っていったのである。
 
 
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